皆さんこんにちは!
今回YUM!は人文社会科学部5コースのうちのひとつである経済・マネジメントコースの諸田博昭先生に取材を行いました。
YUM!:先生の専門分野について教えてください。
諸田:19世紀後半から20世紀前半の中国の貨幣と金融の歴史について研究しています。これまで貨幣を中心に研究をしていましたが、最近は上海の利子率の動向を中心に中国全体の金融についての研究を行っています。コロナウイルスの影響もあって資料探索も難しいですが、出来ることを中心に研究を進めています。
YUM!:先生の講義で触れているグローバル経済史やアジア経済史に関する内容ですか?
諸田:そうですね。グローバル経済史では、イギリスの近代化が広まっていく中で中国がどう変化していくのかについて講義を行っていますね。アジア経済史でも中国の経済史について触れています。基盤共通教育の講義ですが、グローバル経済史と同じ難易度の講義を行っているつもりです。
YUM!:先生が研究者の道に進もうと思ったきっかけを教えてください。
諸田:学部時代は貨幣や金融とは違って、人的な結合や家族経済史を中心に研究を行っていました。伝統的な社会はどのような社会形態で、それがどう変わっていって近代社会が成り立ったのかについて研究する分野です。マルクス経済学のような話ですよね。ただ、当時の先生から「この分野では大学教員としてやっていくには難しいだろう」と言われてしまいました。また、自分の才能や調査の難しさも問題の一つでした。卒業論文で行っていた人的な結合が中国に与えた影響について研究していたことがきっかけで中国の経済史に注目しました。また、人的な結合も様々あり、その中でも金融は研究しやすい内容でした。金融は株の取引など完全匿名的と思われますが、実際は銀行融資など対面で行うものは多いです。例えば、寧波(ニンポー)の生糸の業者がいたとすると、寧波の金融業者と取引関係を結びますよね。その人的な関係である金融と経済の関係について研究していくのがとても面白いと思いました。博士論文では全く違った内容を扱ったのですが、今でもその考えは生きていて、金融危機の時に地縁的な関係が経済の救済を行った事例などを調べていました。
YUM!:研究のやりがいや大変であったことを教えてください。
諸田:自分より遥かに上だろうと思っていた人たちが驚くような成果を出した時に気持ちいいと感じますね。自分の頭の中にあったパズルが組み合わさって完成形に近づくような感覚です。それが最高ですね。コーヒーを飲みながら、資料を見ながらその作業を行っている時が面白いです。ただ、大学受験の問題集のように正解があるわけではないところが大変な点ではあります。偉い先生方が見つけられていない内容を見つけるには、普通のことをやっていても見つかりませんよね。現地に行って資料館で調査を行うのはもちろん、すでに刊行されている新聞等のあまり注目されない資料を丹念に調べていかないといけません。さらに、そこで出た資料が先行研究の内容を大きく変えることができるかが分からないという点が大変でもあり、やりがいでもあります。
YUM!:今までの研究の中でもっともやりがいを感じた瞬間を何ですか。
諸田:博士論文を仕上げるために中国留学を行っていたんですね。そこで、1900年代前半の銀行黎明期の銀行券について調べていた時に、地名が銀行券に入っているのを見つけたんですよ。つまり、それらは流通域が限定されている銀行券ということです。これが、調べると日々レートが変動しているということが分ったのです。これは、今までの研究でいうと市場が分断されていて、国は一つであるが市場はバラバラだったからそのようなことが起こるという話でした。私の研究では、地名の入った銀行券から、当時の中国の状況を鑑みるに銀行券が地名券としての役割を果たすことで普及したという側面があることが分かり、それが博士論文の中核になりました。これが、当時の指導教官や博士論文の審査員から高い評価を受けて、すごく嬉しかったことを今も覚えています。
YUM!:研究やこれからの展望について教えてください。
諸田:今まで貨幣史についてやってきて、貨幣の形態が直近の研究成果でいうと、いわゆる国や中央銀行じゃないところが貨幣を発行している状況で、中国では商品貨幣として貴金属を用いることから脱しているんですよ。当時は銀本位制なので裏付けとして貨幣の裏付けとして銀はある形態だったんですが、意図的に引き出しを規制されていたことが分かったんです。この中で特筆すべき点は、伝統的な金融機関は準備金の量が公開されていないのにかなりの信用を得ていたということです。なので、国家の裏付けであったり会計監査であったりという近代的な金融以外で、貨幣の流通を適正な水準に保つ現象があり得たのではないかと考えました。これについて今までの貨幣史や金融史という分野で中国の経済史をやりながら、そこにも自分の研究を及ぼしていきたいという思いがあります。金融論や貨幣論にも何かしらの意義を持たせるような中国の貨幣史と金融史の実証研究にしていけたらいいなと思っています。それと上海の利子率を調べて、貨幣形態と利子率が適正な水準で収まっていたのかなど、中国内部の変化についても論じたいと考えています。
もう一つは、中国自体を調べるのは情報規制やコロナ禍で厳しくなっていて、資料を中国にいって調査することは諦めているんですね。そこで、中国の国際関係における銀の出入りなどから貨幣水準が適正に保たれていたのか調べて、また、それが信用貨幣の経済とどう絡んでいるのかついて調べていこうと思っています。そして、だんだんと対外関係、例えば英中関係や日中関係、の方にウェイトを移していけたらいいなと考えています。
YUM!:学生時代はどのような学生でしたか?
諸田:今とほとんど変わらないですね(笑)。マイペースでした。ただ大学1年の頃から大学の教員になりたいと思っていたので、頑固でもありましたね。頑固でマイペースな学生でした。あと、あんまり授業に真面目に取り組んでいたか、というとそうではなかったんです。実は、アジア経済史の授業で講義のうち30分ほど寝ていたこともありました。本当に私の学生時代からすると、山大生はとても真面目だなと思っています。ただ、授業で紹介された文献とかを図書館で読んで、調べていく中でだんだん分かってくると面白くなっていきましたね。自分でいうのもなんですが、ガッツはあったのかなと思っています。きついなと思っても歯を食いしばって頑張ることはその時から出来ていて、研究者としての大事な部分はあったのかと思います。
YUM!:最後に諸田先生のもとで何を学ぶことが出来るのかについて教えてください。
諸田:私のゼミでは、前期ではグローバル経済史と関連する基礎的な文献を読んで、現代までに連なるような資本主義の発展がどのようなものだったのか、なぜ経済発展が持続するのか、そこにどのような変化があるのかなど、長期的な視野について学んでもらいます。後期は、卒論がメインになってきます。今まで4年生が一人ずつというケースが多かったので、卒論をゼミで徹底的にやるようにしています。まず、自分が何をやるのか、何故それをやるのかについて徹底的にやります。今の4年生は近代の日本の紡績業について卒論を書いていて、何故それをやるのか、日本紡績業というのはどういう重要性があるのかについて前期で学んだグローバル経済史的な視点を生かしてほしいと伝えました。また、それについて日本紡績業の位置づけをしながら、あわよくば現代に繋がるような意義について主張できるようにしながら卒論をつくることを目指しています。これは、3年生も四年生の作業を見ながら文献の調査であったり、議論であったりを行い皆で仕上げていくという感じです。総合すると、グローバル経済史の基礎を学びながら、個々の事象について、それを長期的な視野から物事を語ることができるようになるということです。これが私のゼミで学ぶことが出来ることです。
諸田先生から生徒へ向けてメッセージ↷
MOROTA Hiroaki
コース:経済・マネジメントコース
メールアドレス:morota@human.kj.yamagata-u.ac.jp
ホームページ:https://www-hs.yamagata-u.ac.jp/faculty/teacher/em/teacher_105/
専門領域:アジア経済史、グローバル経済史
2023年9月14日
2023年6月5日