先日6月3日、第4回となる学長講演会シリーズ「山形から世界へ」が山形大学小白川キャンパスで行われました!
「これからの日本経済とイノベーションの必要性~トヨタ・プリウスに見るイノベーションのあり方~」というテーマのもと、山形大学特任教授・元トヨタ自動車グローバル担当広報部長の土井正巳氏に講演を行っていただきました。
会場には多くの山大生、教授、地域の方々が足を運び、すぐに満員となりました!
土井氏はトヨタ自動車でグローバル担当広報部長として働き、「自分が勉強したことを若い人に伝えたい!」という思いでトヨタを退職した後、山形大学の特任教授を務めています。
何故、イノベーションは必要なのか?
日本は近年、デフレ、少子高齢化、財政赤字など多くの問題を抱えています。
しかしそれとは裏腹に、アジア全体では経済成長が続いており、世界の経済の半分をアジアが担っているとさえ言われています。
そんなアジアの中で今の日本が担える役割は何か……。
それは、他のアジア諸国の発展を助けるということです。先進国がどんどん上に行き、新興国を引っ張っていく役割があります。
そのためには、日本がイノベーション(技術革新)を起こし続けていくことが必要不可欠なのです。
トヨタ・プリウスからみるイノベーション例
では、イノベーションは今まで具体的にどのような効果を上げてきたのでしょうか。
土井氏は、トヨタ勤務時に開発された車種『プリウス』のイノベーションを例に挙げて説明してくださいました。
プリウスとは、トヨタ自動車が1997年に発売された世界初の量産ハイブリッド専用車です。
プリウスが開発されたきっかけは、世界的にも環境問題の大きなターニングポイントとなった1992年のブラジル地球環境サミットです。
このサミット後、環境悪化を食い止めるために「21世紀にふさわしい車を作ろう」という空気が高まり、「G21プロジェクト」がスタートし、プリウスの開発が始まりました。
その時上層部が開発部門に命じた目標は、「燃費を従来の2倍にせよ」!
つまり、今までの車が使っていたガソリンの2分の1で、同距離を走ることができる車を開発しなさいという、かなりハードルの高い目標です。素人目に見ても、これはかなりの無理難題だと思います。
しかし目標達成のために、今まで社内で積み重ねた技術を使い、技術者の皆さんが力を結集した結果、電気とガソリンを使い分けられるハイブリッド技術を搭載した車の誕生というイノベーションが起こったのです。
トヨタはコーポレートビジョン「豊田綱領」において、「イノベーションを起こして社会貢献をしなさい」と定めているそうです。その姿勢が、世界が抱えている環境問題を食い止めるための手段となり得るプリウス誕生に繋がったのかもしれませんね。
イノベーション技術の普及のために
たとえイノベーションが起きても、その製品が普及して役に立たなければ意味がありません。
実際に、プリウスも発売当初は話題性はあったもののあまり売れ行きは良くなく、二代目、三代目と不断の努力で改良を重ねていくうちに、どんどん売り上げを伸ばしてきて今日の普及に至っています。
専門的な分野に詳しくない消費者からすると、「ハイブリッド技術が使われている車が新発売したよ!」と説明されても、「ハイブリッド技術って何だろう……? 何だか複雑そう」と最初のうちはなかなか買う勇気が出ませんよね。
そこで重要になってくるのはマーケティングです。
マーケティングとは、簡単に説明すると、客のニーズに合った商品やサービスを作り出すために、商品開発、販売戦略、広告宣伝、効果検証といった一つの流れを計画し、管理することです。
「こういう車に乗りたい」という人々にプリウスを届けるために、日本では『21世紀に間に合いました』という広告で次世代を担う車であることをアピールしました。
また、発売時から「3分の1プロジェクト」がスタートしました。これは、ハイブリッド部品のコスト、重量、大きさを3分の1にするというものです。プリウスの普及に繋げるため、手に入りやすい価格にすることが目的です。
「世界初のハイブリッド量産車」というイノベーション完了時から、更に次のイノベーションに繋げるための努力が始まっていたのです。
土井氏の講演終了後は、小山学長との対談が行われました。
その中で土井氏は、日本での人材育成のための教育について、「アジア各国と比較すると日本では伝統的に築かれてきた技術があり、その技術が次の世代のためのイノベーションに繋がる。日本人独自のおもしろい感覚で、世界をリードできる自信を持って大学生には勉強をしてほしい」と語っていただきました。
また、小山学長の「若者がイノベーションに向かっていくために心がけるべきことは?」という質問に対し、土井氏は「社会の変化の大きな流れを読み取る力を身に付けてほしい」と、単に技術力があるだけでは、イノベーションは起こらないと強調しました。
また、土井氏への質問時間では、近い将来、技術を開発する側になるかもしれない工学部の学生からの質問が多く寄せられました。
中でも「自給自足で生活できてきた貧困国の人々などに対し、わざわざ新技術を提供して経済に介入させることの具体的な利点は何か」と学生からの鋭い質問に対し、土井氏は、「近年の医学発達による人口増加により、食糧争いが起こり得る点を挙げ、経済を発展させることでそれを回避させられる」と答えました。
今回の講演テーマだった「これからの日本経済とイノベーションの必要性」
私達大学生にとって、社会に出て働く前に、実際の体験に基づくお話を聞く事ができた素晴らしい機会となりました。
各々が社会を読み取り、変化に臨機応変に対応していくという姿勢がイノベーションを起こすために必要不可欠です。その事を学生たちに気づかせてくれる講演会でした。
2023年5月11日